企業におけるテレワーク導入が進む現在、テレワークを前提とした地方移住に興味を持つ人も増えてきています。本記事では内閣府の調査データをもとに、テレワークによる地方移住の実態について解説します。併せて、地方移住のメリット・デメリットもご紹介しますので、地方移住に興味のある方はぜひ参考にしてください。
テレワークで進む『地方創生』
近年、企業におけるテレワークの普及が加速しています。特に新型コロナウイルスの感染拡大以降、テレワークにより自宅で仕事をする人が飛躍的に増加し、会社員の仕事に対する意識も変わりました。テレワークできる環境があれば、会社以外の場所でも会社にいるのと同じ仕事ができる、という認識を多くの会社員が持つようになったのです。
そうした中、テレワークを前提とする地方移住への関心を示す人が増加しています。内閣府の調査によると、東京圏に在住する人のうち「地方移住に興味がある」と答えた人は、2019年12月時点で25.1%だったのに対し、2020年同月では31.5%に上昇しているとのことです。
東京都23区在住の20代に対象を絞ると、この傾向はさらに顕著になり、2019年12月の38.9%から1年で47.1%にまで推移しています。この結果を見るに、東京都23区内における20代の若者のうち、約2人に1人が地方移住に関心を示していることがうかがえます。
今後、企業におけるテレワーク環境の整備がすすめば、地方あるいは故郷で暮らしながらテレワークで仕事に勤しむ人が増えていくでしょう。このようにICTを活用し、地方で会社と同じ仕事をする形態を、総称して「ふるさとテレワーク」と呼びます。
オフィスごと地方に移転・分散する企業も現れる
個人だけでなく、オフィスごと地方へ移転・分散する企業も現れています。株式会社パソナグループでは、「真に豊かな生き方・働き方」の実現とBCP対策の一環として、大規模な地方移転計画を公開しました。
この計画では、本社所在地に関しては都市圏に残す一方で、主要な本社機能を地方へ移転させるとのことです。計画上、全従業員の約7割にあたる1,200人が、段階的に地方へ移住することが予定されています。
こうした地方移住の動きは、ほかの企業にも広がっていくと予想されます。テレワーク環境の整備を前提として、地方移住を選択する人は今後も増加する見込みです。
テレワークで地方移住するメリット
では、テレワークを前提にわざわざ地方へと移住するメリットには、一体どのようなものでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。
最大100万円の移住支援金が受けられる</h3>
地方移住の主なメリットとしては、まず移住支援金を受けられることが挙げられます。本制度は当初、東京都で暮らす人が東京圏外へ移住し、起業・就職した場合を対象としていました。しかし、2021年よりこの要件が緩和され、地方移住後に東京の仕事をテレワークで続ける人も対象に加わっています。
移住支援金にはいくつか受給要件があり、それらを満たした場合に限り、最大100万円(単身者は最大60万円)の給付が受けられます。主な要件としては以下が挙げられます。
- 東京23区に住んでいるか、東京圏から東京23区に通勤している人
移住直前10年間のうち通算5年以上、東京23区もしくは東京圏に住んでいることが必要です。 - 東京圏以外の道府県もしくは東京圏の条件不利地域へ移住する人
申請後5年以上は、継続して移住先に住む意志が必要です。 - 移住先で起業・就職するか、移住前の業務をテレワークで継続する人
起業する場合は、1年以内に起業支援金の交付が決定している必要もあります。
このほか、詳細な移住支援金の条件に関しては、内閣府の公式サイトでご確認ください。
転職することなく地元や田舎でライフスタイルを形成できる
内閣府の調査によれば、東京圏に在住する人が地方移住に関心をもつ理由の上位3つは、以下の通りでした。
1位:人口密度が低く、豊かな自然環境に魅力を感じるから(28.8%)
2位:テレワークなら、地方でも同じように働けるから(24.1%)
3位:都市部での仕事重視から、地方での生活重視にライフスタイルを変えたいため(17.9%)
勤務先がテレワークを認めていれば、会社から離れた地方に移住してもオフィスにいるときと同じ仕事ができるため、転職の必要がありません。そのうえで、上記の調査結果にもあるように、豊かな自然環境の中でゆっくりとした時間を過ごす、生活重視のライフスタイルに変えられるのです。
また、テレワークなら出勤の必要がないことから、満員電車や人混みにもまれて疲れることもありません。家族と過ごしたり趣味に没頭したりできる時間も長くなります。
テレワークでの地方移住が難しい理由
ここまで見てきたように、テレワークが可能であれば、地方移住には魅力的なメリットがさまざまあります。それでもなお、地方移住を断念する人が少なくないのが実情です。実際のところ、テレワークでの地方移住には一体どういったハードルがあるのでしょうか。以下では、テレワークでの地方移住が難しいとされる理由を解説します。
一部出社を求める企業が多い
仮にテレワークを導入していても、完全に出社する必要がないケースは稀です。テレワークを実施する多くの企業では、頻度こそ「週1回」「月2~3回」など差はあるものの、定期的な出勤が求められます。というのも、実際にオフィスで顔を合わせてコミュニケーションをとることには、以下のようなメリットがあると考えられているからです。
- より円滑な人間関係を築ける
- 組織の一体感がもてる
- 相手の顔を見ながら議論を進めることで、新たなアイデアが生まれやすい
仮にテレワークが可能だとしても、オフィスに定期的に出勤しないといけないようであれば、地方に移住するのは難しいでしょう。結局、東京圏に住みながらオフィスへ出勤しなくてはなりません。
子どもの教育問題
すでに家庭をもっている場合は、子どもや家族の生活も考えたうえで、地方移住の是非を判断しなくてはなりません。自然豊かな環境は、子どもの教育にはよい影響をもたらす反面、進学先の選択肢が都市部に比べ大幅に少なくなるデメリットがあります。都市部であれば進学校から専門校まで幅広い選択肢がありますが、地方によっては高校が1つしかないケースも珍しくありません。
また、地方へ移住するとなると、親しい友人やご近所さんとも気軽に会えなくなります。特に子どもは、移住に際して転校の必要が生じるため、せっかく関係を築いた同級生たちと離れないといけないのは辛く感じるでしょう。
もちろん、移住先で新しい同級生や友達と出会えるため、必ずしも悪い点ばかりではありません。とはいえ、子どもの教育をどうするかといった点をはじめ、地方へ移住するなら家族としっかり話し合う必要があるでしょう。
テレワークによる地方移住の実態
20代の若者を中心に、テレワークを背景として地方移住に関心を示す人が多い一方で、実際に地方移住に向けて行動している人はあまり多くありません。内閣府の調査によれば、地方移住に関心がある人のうち、下記のような具体的な行動をとった人の割合は27.2%にとどまっています(もともと関心が高い20代に限れば37.9%)。
- 移住先での住宅情報を調べた:13.1%
- 移住先での就職情報を調べた:7.0%
- 移住に向けて家族と具体的な相談をした:4.9%
- 移住先の学校情報を調べた:3.1%
- 移住のための相談窓口を利用した:2.7%
- 移住先を決定し、具体的な引っ越し予定がある:2.6%
- 引っ越しの資金集めを始めた:2.3%
これらのデータを見るに、具体的な行動といっても精々が移住先の情報を調べる程度で、資金集めや家族との相談など、地方移住を現実的に捉えた行動をとった人は少数であることがわかります。テレワークを前提とした地方移住は、注目度の高さに反し、さほど浸透していないといえるでしょう。
まとめ
企業のテレワーク導入が進む中、テレワークを前提とした地方移住に関心を示す人が、若い世代を中心に増えてきています。最大100万円の移住支援金を受けられたり、豊かな自然環境の中で生活できたりするなど、地方移住にはさまざまなメリットがあります。その反面、家族の生活面など難しい問題があることも事実です。実際、データを見る限りテレワーク前提の地方移住は、現状あまり進んでいるとはいえません。地方移住を検討する際は、こうしたメリット・デメリットをよく理解したうえで慎重に選択することが大切です。
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