DXを実現するために欠かせない要素の一つが、自社のシステムや組織体制を「クラウドネイティブ化」していくことです。しかし、そもそもクラウドネイティブとはどのような概念で、なぜ重要なのかわからない、という方もいるでしょう。本記事では、クラウドネイティブの意味とその重要性について詳しく解説します。
クラウドネイティブとは何か
クラウドネイティブとは、オンプレミスにはないクラウド特有の強みを最大化する仕組みのことです。
例えば、これまではサーバーに異常が起きたり停止したりすると、システムの利用を止めるなどしながら修復する必要がありました。しかし、サーバー同士がネットワークでつながっているクラウドネイティブなシステムであれば、あるサーバーに問題が起きたとしても、瞬時に別のサーバーが割り当てられ、何事もなかったかのようにシステムの継続を続けられます。
クラウド環境は、たくさんのサーバーや記憶媒体などを利用して構築されるため、オンプレミス環境とはインフラストラクチャーの機能が激変しています。今の時代においては、アーキテクチャやアプリケーションのシステム構造はもちろん、企業の組織形態もクラウド技術の活用を前提とする必要があり、クラウドネイティブは、まさにそれを成し遂げた状態です。
多くの企業が、Microsoft AzureやAmazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)などのクラウドサービスを利用していることからもわかるように、程度の差こそあれ、クラウドネイティブ化はもはやビジネスにおいて不可避な選択と言えるでしょう。
クラウドネイティブなアプリケーションの具体例
続いて、クラウドネイティブの特性をより深く理解するために、従来型のアプリケーションと比較しながら、通販アプリを例に挙げて解説していきます。
従来型のアプリケーション
まずは、従来型のアプリケーション開発の方法を簡単に紹介しましょう。
従来型のアプリケーションは、すべての異なる機能が単一のコードベースで構築されます。通販アプリの場合だと、商品情報の掲載ページをはじめ、決済処理・レコメンド・ブログといった多くのサービスが、それぞれ独自の役割を果たしながら、すべて1つのアプリケーションとして統合されています。
こうして完成されたアプリケーションは、はじめこそ見事な整合性で機能するかもしれません。しかし、このアプリケーションは、さまざまな機能が複雑に絡み合い、相互依存的に構築されています。
そのため、機能追加やOSアップデートなどの対応を繰り返すうちに、「システム構造がますます複雑になり、全体の整合性を取るのが難しくなっていく」という欠点を抱えています。
このようなアプリケーションだと、革新的な技術やアイデアが生まれたとしても、システムへ組み込むのに四苦八苦することになるでしょう。最終的には、障害が発生しても、どこに原因があるのかもわからないようなブラックボックス化したシステムになってしまうのです。
クラウドネイティブなアプリケーション
従来型のアプリケーションに対して、クラウドネイティブアーキテクチャを採用したアプリケーションでは、各機能が「マイクロサービス」と呼ばれる分離した小さなアプリケーションのようになっています。これらは互いに独立しており、修正や変更を加えても相互に影響することはありません。
従来型のアプリケーションでは、基本的に完成された状態でしかアプリケーションをリリースすることができません。しかし、クラウドネイティブ開発ならば、重要な機能から順々に追加しながらアプリケーションをリリースすることができます。もし、追加した機能が不具合を起こしても、その機能のみを取り出して修正すればよいのです。
通販アプリの場合だと、ユーザーからの評価やECサイト内で収集されたデータなどを適宜チェックして、評判の悪い機能を変更したり削除したりすることも容易にできます。
つまり、クラウドネイティブアプリケーションでは、従来型のアプリケーションのようなブラックボックス化が起こらず、アジャイル開発を機敏かつスピーディーに進めることが可能なのです。
レガシーシステムとクラウドネイティブ
従来型アプリケーションの解説を読んで、「レガシーシステム」を連想した人もいるのではないでしょうか。
レガシーシステムとは、古いテクノロジーを採用しているソフトウェアやハードウェアのことです。長年利用されるなかで仕様変更や機能追加などを繰り返し、手に負えないほど複雑化しているシステムも、同様にレガシーシステムと呼ばれます。したがって従来型アプリケーションの末期状態は、レガシーシステムの一つと言えるでしょう。
レガシーシステムは、時代遅れなパフォーマンスしか発揮できないだけでなく、ブラックボックス化していることから、保守管理の難度やコストが高くなりがちです。現在、多くの日本企業がレガシーシステムをIT負債として所有しており、このシステムの刷新、いわゆる「ITモダナイゼーション」への取り組みが強く求められています。
そして、レガシーシステムをどのように近代化すればいいのかという質問への回答が、クラウドネイティブ化です。拡張性に優れたクラウドネイティブなシステムは、保守管理のコストを下げるのみならず、最新の技術やサービスにも柔軟に対応できるため、長期に渡って常に高いパフォーマンスを引き出すことを可能にします。
クラウドネイティブな組織構造を構築する重要性
クラウドネイティブなアプリケーションは、前述の通り、非常に柔軟な運用が可能です。しかし、クラウド特有の強みと最大限に引き出すためには、システムを使う企業自体の組織改革も欠かせません。
例えば、ECサイト内のデータ分析によって、自社システム・商品・サービスの課題点が見つかったとしましょう。経営者がその分析結果に価値を感じず、従来の方法に固執するならば、クラウドネイティブ開発特有の柔軟性や機敏性が発揮されることはありません。そして、現代の競争が激しいビジネス社会において、変化を受け入れられない企業は遠からず淘汰されていくでしょう。
実際、現代のビジネス社会においては、「データ技術を活かした企業が業界を席巻する」という事例が頻繁に見られます。システムやデータを活かせるかどうかは、結局のところ人間次第であり、人間が集まってできた組織次第です。「クラウドネイティブな組織体制」「データドリブンな組織体制」はまさに、今後の社会で業績を伸ばしていくための貴重な資質と言えるでしょう。
中小企業がクラウドネイティブ化を進めるステップ
クラウドネイティブ化が求められるのは、大企業だけでなく中小企業も同様です。ここでは、中小企業がクラウドネイティブ化を進めるためのステップを簡単に解説します。
ステップ1.社内業務の効率化
ステップ1は「社内業務の効率化」です。例えば、従来は紙で管理していた情報をデジタル化してアクセス性を高めたり、手作業で行っていた業務をRPAなどのツールで自動化したりすることが代表的です。
今やこうしたクラウドサービスは多種多様に提供されているため、自社の課題を解決し、生産性や業務効率化を高めてくれるソリューションは見つけやすくなっています。
ステップ2.社内の見える化
ステップ2は「社内の見える化」です。クラウドネイティブ化を進めていくにつれ、これまで各部門・各個人がばらばらに管理していた膨大なデータが、クラウド上に蓄積されていきます。
こうしたデータを分析し、社内の見える化を進めることで、「ビジネスプロセスのどこに問題があるのか」を適宜把握していけます。データに照らして自社の長所・短所を明確化すれば、より具体的で効果的にビジネス戦略を立てていけるでしょう。
ステップ3.ビジネスモデルの変革
ステップ3は「ビジネスモデルの変革」です。ステップ2の「社内の見える化」によって、自社の課題解決に積極的に取り組むなかで、従来にはなかった新たな価値が創造されることもあるでしょう。
例えば、自社の業務効率をシステム活用によって大きく改善できた場合、その技術やノウハウは、同じような問題を抱えた同業他社にも魅力的に見えるはずです。そうした企業に自社のソリューションを提供すれば、本来の事業とは異なった形でのビジネス展開も可能になるでしょう。
まとめ
クラウドネイティブとは、クラウドが持つ拡張性や柔軟性、機敏性などの大きなメリットを最大限に活用できる状態を意味します。クラウドネイティブなシステムは従来のシステムに比べ、はるかに柔軟かつ迅速な運用が可能です。
ただし、システムを活用するのが人間である以上、真のクラウドネイティブ化を実現するためには、システムだけでなく企業そのものの組織構造を変えなければなりません。クラウドネイティブな企業であるためには、データドリブンな意思決定を行える体制づくりが重要となるでしょう。
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