全国中小企業クラウド実践大賞は、クラウドサービス利活用を実践し収益力向上・経営効率化したモデル事例のなかから、コンテストにより優れた取り組みに対して総務大臣賞、日本商工会議所会頭賞等を贈るコンテストです。
2020年11月18日に行われた岡山大会より、有限会社 ホリエの事例をご紹介します。クラウドを導入することで、業務効率化を行い、総稼働時間を7.2%減少させつつ売上高を13%アップ、人時売上高に換算すると22%向上と大きな結果をあげています。労働環境を向上させることにより、EX(従業員エクスペリエンス)と顧客対応⼒をアップ。CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)向上につながる事例をご覧ください。
有限会社 ホリエの概要

■法人名:有限会社 ホリエ
■事業内容 :精密板⾦・機械加⼯
四国で唯⼀、ウォータージェット加⼯機を保有
■設⽴:2000年1⽉
■従業員数:30⼈
■公式WEBサイト:http://horie-g.co.jp/
有限会社 ホリエは、愛媛県松山市の金属加工会社です。
四国では唯一ウォータージェット加工機を保有するなど、多くの設備を導入することで精密板金から機械部加工まで一貫して行っています。
売上と⽣産性

有限会社ホリエでは、クラウド導入により大きな成果を上げることができました。
こちらはクラウド導入前後の一覧表です。
- 売上は 348百万円→395百万円と 13%アップ
- 総稼働時間は63,146時間→58,599時間と 7.2%減少
- それぞれの人時売上高は、5,511円→6,740円と22%向上しています。
このような結果を得られた仕組みについて、次項から順に見ていきましょう。
ある⼀⽇の注⽂状況

まず、クラウド導入前の状況です。
こちらはある日の受注状況の抜粋。
発注日から納期までが2日以内、つまり急ぎで対応すべき「特急品」と呼ばれているものをピックアップしています。
特急品は試作対応が多いため、新規品の割合が9割程度。ほとんどは新規注文です。

この日だけで見ても特急品が80件。うち7件が当⽇納期という状況。
有限会社ホリエでは「確実な納期対応」をモットーにしており、特急品に対して確実に対応していくことでお客様から厚い信頼を得ています。
しかし、このような生産の方法をとることによる、従業員の疲弊は免れません。決して労働環境が良いといえない状況であり、年に3%程度はお客様に対して納期調整をお願いしなければいけないというケースもありました。
課題

課題として認識したのは、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)のためには、EX(従業員エクスペリエンス:従業員体験)が必要だということです。
EX向上のためには、まず従業員の労働環境の整備を図るべきだと考えました。
業務の流れを見てみましょう。大きく分けると以下の4段階になります。
- お客様からいただいた図面をCADチームがデータ化し
- データをもとにレーザーやウォータージェットで切断
- 曲げ
- 溶接と加工
このような流れで1日1300点もの製品を作り出しています。
これはあくまで日常品の業務フローです。
次は、特急品のオーダーが入った場合を見てみましょう。

特急品が入ってきた場合は、上記の日常的な生産をいったんストップさせて特急品の対応を優先させます。
この対応で、なかなか生産性が上がらないというネックがありました。
定時後の残業時間に受注した場合は、後工程の方で対応待ちをしなければならない無駄な残業が発生していたのです。
従業員としては、翌日もおそらくあるであろう特急品に備え、少しでも日常品の業務をして帰ろうという前向きな対応で取り組んでもらっていたのですが、そもそもどこまで業務を進めておくべきかが事前にわかりません。
そのうち、残業が毎日確定しているので「急いで仕事を意味がない」とモチベーションが下がるという悪循環になっていたのです。
改善⽅法

そこで、改善方法としてこの3つの方針を打ち出して取り組みました。
リモート機能を使い生産管理の徹底

まずはじめに行ったのは、リモートによる生産管理の徹底です。
導入前の仕事の流れは、営業担当者が会社に戻ってきてから、受注した製品の納期を確認して回答、生産の手配・見積を行っていました。この流れを経ているため、特級品の注文が工場に来る頃には残業が確定してしまっていたのです。
社長は事務所にいても、来客者の対応に追われてしまい、なかなか工場に顔を出すこともできない状況だったのです。
そこでクラウドを活用したリモートデスクトップを導入。
営業先から営業は仕事量や納期 を逐次確認できるようにしました。お客様にリアルタイムで納期回答ができ、注文を工場にすぐ流せるようになったのです。
工場では営業がすぐ特急品の手配を行えるようになったため、1日の業務の中で、生産の調整ができるようになりました。
事務所では、負荷が大きいCAD部門の仕事についてはリモートワークで協力できるように対応。工場にはインターネットカメラを設置することで、社長が事務所から現場を確認できるようしました。
営業におけるお客様対応力の強化をはかった結果、工場と事務所では労働環境が改善。EX向上と同時にCX向上にもつながりました。
受注時に仕事の平準化

次に受注時における仕事の平準化です。
これまでは、営業社員ごとに仕事を把握し、各々が生産管理システムに登録するという流れでした。このため、製造日が集中してしまい業務にばらつきが生じていました。

そこで、全営業社員の仕事をクラウド上で共有。その後に分配するという形に変更しました。
業務担当が一括して生産管理システムに社内登録を行い、仕事が集中した日は社内で納期を調整することで平準化を行うことができるようになったのです。
この改善により負荷が減った営業部門では、お客様のフォローをより入念にするようになり、ここでもEX向上を目指した結果、CXを向上させることができました。
従業員の意識改善

最後に従業員の意識改善です。
これまで、従業員のベクトルがバラバラで、会社で決めた目標やお客様からの要望などがなかなか浸透せず、うやむやになるケースが多くありました。
そこでコミュニケーションツールを導入し、ベクトルの統一を図っていきました。
お客様からの要望や仕事量などについて、各工程や各役職によるミーティングの結果決まった目標や改善点そして他部門への要望などを共有しています。
この結果、従業員同士で助け合いするような形が生まれただけでなく、労働時間の減少という成果も得られました。
それだけではなく、製品の不良率も低下したのです。
またもやEX向上を目指した結果、CXを向上させることができました。

この発表に先立ち、従業員にコミュニケーションツールを導入した感想を聞いてみました
良かった点としては、情報の共有ができるようになったことや、連絡事項をいつでも投稿できるなどがあります。
対して、今後の課題は投稿に対して反応が薄いことや、使用していない機能があるという意見が上がりました。
この使用していない機能については、「使ったことのない機能を使って、もっと良くしていきましょう」というように前向きな意見も得られ、さらなる改善や活性化が見込まれると考えております。
売上と⽣産性

冒頭で解説したクラウド導入前後の結果に、2020年の結果を途中経過ではありますが掲載しました。
新型コロナウイルス感染症の影響で、売り上げは下がってしまいましたが、人時売上高は変わらず高い水準を維持しています。
また10月単月では、過去最高益を更新しました。コロナ禍の前より取り組んできた新規顧客の開拓などが実を結んだ結果だと考えています。
結果・今後の展望

最後のまとめです。クラウド導入により、
納期厳守率は99.98%に向上
人時売上高は22%向上
さらに、コロナ禍おいても基本給を3.5%を向上させることができました。
クラウド化によるEX向上がCX向上につながり、さらにEX向上へと、悪循環を好循環に転換させられたのです。
今後の展望としては、従業員が安心して働ける環境の構築や、お客様のニーズへの対応力強化のために、製造ラインの無人化や納期厳守率100%を目指して取り組んでいきたいと考えております。